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最高裁判所第二小法廷 昭和37年(オ)171号 判決

上告人 三浦芳彩

被上告人 三浦ヤヱコ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一について。

原判決が是認して引用した第一審判決認定の事実関係のもとにおいては、本件養子縁組を継続し難い重大な事由があるとした原審の判断は相当であり、所論引用の判例は本件に適切でない。論旨は採用しえない。

同第二について。

民法八一四条一項三号にいわゆる縁組を継続し難い重大な事由は、必ずしも当事者双方または一方の有責事由に限るものでないことは、当裁判所の判例とするところであるから(昭和三四年(オ)第五九号同三六年四月七日第二小法廷判決、民集一五巻七〇六頁)、上告人と被上告人との親子関係破綻の「責がそのいずれかの一方にあるということについては証拠がない」としながら被上告人の本訴離縁の請求を認容した原判決には所論の違法はない。論旨は、その援用の離婚についての判例の趣旨を正解せず、独自の見解に立脚して原判決の不当を鳴らすにすぎないものであつて、いずれも理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

上告人の上告理由

原審判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。

第一

(一) 原審判決は事実を認定した上右事実は民法第八一四条一項三号に規定する縁組を継続し難い重大な事由に当る場合と解する外ないと認定している。

(二) しかしながら現行法第八一四条は従来の列挙主義(旧法八六六条)を改めて相対的離縁原因主義を採りその例示的なものとして挙げたのが悪意の遺棄及び養子の三年以上の生死不明なのである。従つて

(1) 第一に悪意の遺棄と義子の三年以上の生死不明との二原因は縁組を継続し難い重大な事由の具体的内容を定めるに際しての標準を示すこととなる。即ち悪意の遺棄又は養子の三年以上の生死不明と同じ程度の重大な事由が縁組を継続し難い重大な事由なのである。

(2) 第二に旧民法第八六六条に列挙して現行法第八一四条に挙げられていないような事由が縁組を継続し難い重大な理由ということになる。そうすると右の「重大な理由」には旧法第八六六条の他方の虐待又は重大な侮辱、他方の重禁錮以上の処刑、自己の真系尊属に対する虐待又は重大な侮辱が数えられるわけである。

(三) 本件上告人(養子)には右に掲げるような悪意の遺棄も三年以上の生死不頃もなく被上告人(養親)に対する虐待も侮辱もその直系尊属に対する虐待も重大な侮辱も全くなく又それらと同程度の事実に類する事実も全くない。原審判決に於てもさようなことがあつたとの認定はされていない。

(四) 左記判例(又は判決例)は原審認定の上告人に関する事実よりも遙かに悪質なるにかかわらず離縁請求を認容していない。

(1) 長崎控判大正三年三月十九日新聞九五二号二八頁。

(2) 大判昭和一一年一〇月一九日全集三輯一一号一三頁。

(3) 東京控判明治四五年六月一五日評論一巻民法三五九頁。

(4) 前橋地判大正五年六月一二日新聞一一七七号一九頁。

(5) 東京控判明治四五年三月一四日評論一巻民法一三三頁。

(6) 東京控判昭和二年一〇月二九日新報一三三号一八頁。

(五) 従つて本件事由は両者間の縁組を継続し難い重大な事由にあたるとした原審判決は民法第八一四条一項三号の解釈を誤り法令に違背したものでありこれは判決に影響を及ぼすものであつて原審判決は破棄さるべきである。

第二

(一) 原審判決は上告人及被上告人が絶交状態に至つた原因ないし経緯を認定した上その責が上告人、被上告人いずれかの一方にあるということについては証拠がないとしながら本件事由は両者間の縁組を継続し難い重大な事由に当るとしている。

(二) しかし原審認定の如く「上告人は帰省の折、被上告人方を訪れても被上告人は歓迎しないどころか露骨に不快の感情を示した」ことが両者疎遠の原因であるから今日の状態は被上告人にこそ、その責任があるというべきであつて有責当事者からの請求を認容した原審判決は不当である。

(三) 右については有責配偶者の離婚請求について消極的態度をとつた左記判例御参照。

(1) 最高判昭和二七年二月一九日民集六巻二号一一一頁。

(2) 最高判昭和二九年一一月五日民集八巻一一号二〇二四頁。

(3) 最高判昭和二九年一二月一四日民集八巻一二号二一四四頁。

(四) 仮りにその責任を折半しその軽重に甲乙をつけ難い(原審認定通り)としても被請求者たる上告人(養子)に、より多くの責任がない以上被上告人の請求を認容した原審判決は不当である。

(五) 結局右はいずれも民法第八一四条一項三号の解釈を誤り法令に違背したものであり判決に影響を及ぼすこと明らかであつて原判決は破棄さるべきである。

(六) 昭和三十年十一月二十四日の最高裁第一小法廷判決(民集九巻一二号一八三八頁)は離婚請求事件に於て「原判決では被上告人側にもいくらかの落度は認められるが上告人側に、より多大の落度があると認められる場合に被上告人の離婚請求を認めても違法とはいえない」と判示しているが、その見解の基礎に離婚の許否をその有責性の比較衡量にかからせようという態度が看取されるのであつて民法第八一四条一項三号の解釈についても同様のことがいえるのである。

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